Q 1- 海 藻 と海 草 は同 じですか?
A- どちらも正 式 には「 かいそう」 と読 みます。話 の中 で区 別 する必 要 がある時 には海草 を 「 う み く さ 」 と 言 い ま す 。
ど ち ら も 海 の 沿 岸 部 に 生 育 し ま す が 、 海 藻 (marine algae)は胞 子 で増 えるソウ(藻 )類 であるのに対 して、「 海 草 」 (sea grass)は花 を咲かせて種 子 をつくる種 子 植 物 です。
海 藻 には、コンブ、 ワカメ、ノリ、テングサ、アオサなどがあり、海 草 には、アマモ、スガモ、ウミヒルモ、リュウキュウスガモ、ウミショウブなどがあります。
Q 2- ノリの「 色 落 ち」 って何 ですか?
A- 養 殖 ノリ( ほぼすべてスサビノリ) では、春 先 の水 温 上 昇 に伴 う栄 養 塩 の不 足 ( 植物 プランクトンとも競 合 が起 こりやすい) によって光 合 成 色 素 (クロロフィル、カロロテノイド、フィコビリンなど)の生 成 に支 障 を来 し、体 色 が正 常 な藻 体 より薄 くなり、極 端 な場 合 には淡 い黄 緑 色 ないし白 色 になってしまう現 象 です。
同 様 の現 象 はノリ以 外 の紅 藻 でも認 められ、黄 化 ( yellowing) 、白 化 (bleaching)あるいは変 色( discoloration) と呼 ばれています。
「 色 落 ち」 した生 ノリからつくられる乾 し海 苔 は品 質 が悪 く、出 荷 できないか、等 級 が下 げられます。
Q 3- 海 藻 が多 様 な色 彩 を呈 するのはなぜですか?
A- 海 藻 の色 は藻 体 に含 まれる光 合 成 色 素 の種 類 と量 によって決 まります。光 合 成色 素 には、緑 色 のクロロフィル( a, b, c) 黄 ~ 橙 色 のカロテノイド( β カロテン、赤 褐色 のフコキサンチンなど) 、フィコビリン( 紅 色 のフィコエリスリン、青 色 のフィコシアニン) などがあります。
アオサやアオノリなどの緑 藻 はクロロフィル( Chl. a と Chl. b)や β カロテンの色 により緑 色 ~ 黄 緑 色 となります。コンブやワカメなどの褐 藻 は、クロロフィル( Chl. a と Chl. c) がありますが、フコキサンチンを多 く含 むので褐 色 ~ 黄褐 色 となります。
トサカノリやテングサなどの紅 藻 はクロロフィル( Chl. a) に加 えてフィコエリスリンを多 く含 むので赤 ~ 赤 褐 色 となります。海 藻 の場 合 、同 じ種 類 でも、系 統 や生 育 環 境 によって各 色 素 の量 や割 合 が変 わり、体 色 も大 きく変 化 します。
Q 4- コンブやワカメは湯 通 しするとなぜ緑 色 になるのですか? 海 苔 は焼 くとなぜ緑 色になるのですか?
A- コンブやワカメを湯 通 しすると藻 体 に含 まれているフコキサンチンが変 性 して色 が消 えるため、隠 れていたクロロフィル c の緑 色 が現 われます。
また、乾 し海 苔 を焼くとフィコエリスリンやフィコシアニンは熱 に弱 いので先 に分 解 されてクロロフィル aの緑 色 が現 われます。
Q 5- 海 苔 が湿 気 ると赤 紫 色 になるのはなぜか?
A- 海 苔 に含 まれるクロロフィル a は湿 気 (水 分 )のために分 解 されますが、赤 色 ( 紅色 ) のフィコエリスリンと青 色 のフィコシアニンは残 っているので赤 紫 色 となります。
Q 6- テングサという種 名 の海 藻 はないのですか?
A-「 テングサ」 という種 名 の海 藻 はありません。寒 天 をとるための原 藻 となる紅 藻 テングサ目 の海 藻 を総 称 してテングサといいます。日 本 で寒 天 原 藻 とされてきたテング サ に は 、 マ ク サ 、 オ オ ブ サ 、 キ ヌ ク サ 、 ヒ ラ ク サ 、 オ ニ ク サ ( 以 上 、 テ ン グ サGelidium 属 ) 、 オ バ ク サ ( オ バ ク サ Pterocladiella 属 ) 、 ユ イ キ リ ( ユ イ キ リAcanthopeltis 属 ) などがありますが、近 年 は, マクサやオオブサを使 うことがほとんどです。近 年 は、モロッコなど海 外 からもテングサが輸 入 されています。
Q 7-「うみぶどう」は海藻の名前ですか?
A-「 うみぶどう」 というのは商 品 名 です。海 藻 の名 前 ( 種 名 ) ではありません。緑 藻 イワヅタ属 の一 種 で、正 式 の種 名 はクビレヅタ( Caulerpa lentillifera) といいます。
沖 縄 県 や鹿 児 島 県 の島 々で栽 培 ( 養 殖 ) されており、「 うみぶどう」 の名 で生 ( なま) あるいは塩 蔵 品 として販 売 されています。塩 蔵 品 は真 水 で塩 抜 きすると、水 を吸 って生 きた状 態 のように膨 れます。通 常 、薄 い塩 味 または酢 醤 油 で食 べます。
Q 8-「キラー海藻」って何?
A-緑 藻 イワヅタ属 の一 種 イチイヅタ( Caulerpa taxifolia) で、毒 性 を持 つようになった変 異 株 が「 キラー海 藻 ( killer algae) 」 と呼 ばれています。
本 来 は毒 性 をもたず、インド太 平 洋 ( 日 本 では沖 縄 以 南 ) やカリブ海 の熱 帯 ・ 亜 熱 帯 のサンゴ礁 域 に生育 する海 藻 で、姿 が美 しいことから鑑 賞 用 として水 槽 で培 養 されていました。
ドイツの水 族 館 で選 抜 育 種 を行 うちに低 水 温 耐 性 と毒 性 の強 い変 異 株 が生 まれ、モナコの水 族 館 から流 出 したものが広 がったと考 えられています。
この仲 間 は繁 殖力 が強 く匍 匐 枝 や断 片 で増 えることができ、これを食 べる動 物 がいないので、海産 動 物 の産 卵 ・ 保 育 ・ 生 息 の場 となる他 の海 藻 群 落 を駆 逐 して分 布 域 を拡 大 するようになりました。
地 中 海 では、1984 年 にモナコ沿 岸 の浅 海 域 で 1 ㎡ほどの変 異 型 イチイヅタの群 生 が発 見 されましたが、船 の錨 や魚 網 に付 着 して広 がり、1989 年 に は 1 ~ 2 ha 、 1998 年 に は 5 カ 国 の 沿 岸 で 約 4,800 ha を 占 め 、2003 年 には 1,300ha 以 上 に拡 大 しました。
北 米 やオーストラリアでもその分 布が確 認 されており、日 本 でも 1992~ 93 年 に能 登 半 島 沿 岸 で一 時 的 な生 育 が見 られましたが、定 着 したという報 告 はありません。
Q 9-「髪菜(はっさい)」は海藻ですか?
A-中 国 の青 海 省 、陜 西 省 、内 モンゴル自 治 区 などの半 砂 漠 地 の乾 燥 した土 壌 表面 に生 育 し、毛 髪 状 の小 さな固 まりを形 成 している藍 藻 ( シアノバクテリア) の一種 です。
1 本 1 本 の藻 糸 は独 立 しており、細 胞 が念 珠 状 に 1 列 に連 なったものが薄 い寒 天 質 に包 まれています。乾 燥 した裸 地 または疎 らに生 える小 ブッシュの根 元 の地 表 に殆 んど乾 燥 したような状 態 で生 育 しています。空 気 中 (霧 )から水分 を摂 るかまたは稀 に降 る雨 から水 分 を摂 り、非 常 に長 期 間 乾 燥 状 態 で生 きていることが出 来 ます。
水 中 で生 活 する藻 類 ではなく、 「 陸 生 藻 」 ( または「 地 表藻 」 ) と呼 ぶのがふさわしい藻 類 です。恐 らく、大 昔 は海 中 で生 活 していたものが造 山 活 動 に伴 って陸 地 に持 ち上 げられ、一 部 が生 き残 り現 在 に至 っていると考えられます。 ネンジュモ科 ( Nostocaceae) のネンジュモ属 ( Nostoc) に属 し、学 名は Nostoc flagelliforme( または Nostoc commune var. flagelliforme) といいます。髪 菜 は 、 中 国 語 で は フ ァ ー ツ ァ イ と 呼 び ま す 。
「 財 を 成 す 」 こ と を 意 味 す る 「 発財 」 (fācái)と発 音 が近 いところから、慶 事 の際 の食 材 、高 級 料 理 の食 材 としてよく用 いられます。乾 燥 品 として販 売 されており、中 華 料 理 ではこれを水 に戻 し、蒸 したり煮 たりして使 います。
髪 菜 は蛋 白 質 やミネラルに富 み、血 圧 降 下 、コレステロール減 少 、胃 腸 掃 除 、貧 血 予 防 などの効 果 があることが知 られています。 中 国では経 済 成 長 に伴 って需 要 が著 しく増 加 したため、髪 菜 の採 集 による表 土 の破壊 が著 しくなり、表 土 流 出 などの環 境 破 壊 が深 刻 化 したため、2000 年 6 月 には採 集 と販 売 が禁 止 になっています。
Q 10-中国で栽培 (養殖) されているノリは日本のノリと同じですか?
A-ノリ (紅 藻 アマノリ類 ) は、日 本 、韓 国 、中 国 で栽 培 (養 殖 ) されています。中 国では、日 本 で栽 培 されているのと同 じスサビノリ Neopyropia yezoensis と中 国 だけに生 育 する ハイタンアマノリ Neoporphyra haitanensis の 2 種 が栽 培 されています。
スサビノリは主 に北 部 の江 蘇 省 と山 東 省 の沿 岸 で、ハイタンアマノリは主に南 部 の浙 江 省 と福 建 省 の沿 岸 で栽 培 されています。ハイタンアマノリは海 壇 島( ハイタンタオ) で採 集 された標 本 に基 づいて名 づけられました。中 国 語 ではノリを紫 菜 ( シーツァイ、ツィーサイ、ツーサイ) と言 いますが、ハイタンアマノリは壇 紫 菜( タンツィーサイ) 、スサビノリは条 斑 紫 菜 と呼 ばれます。
ハイタンアマノリはほとんど雌 雄 異 株 ですが、時 に雌 雄 同 株 のものが見 られます。ハイタンアマノリの特 徴 の一 つは、単 胞 子 による無 性 生 殖 が行 われないこと( 「 二 次 芽 」 による繁 殖 がないこと) です。
また、スサビノリに比 べて高 温 に強 い一 方 で低 温 に弱 く、水 温 8℃以 下( スサビノリでは 3℃以 下 ) になると生 長 が抑 えられます。中 国 では、スサビノリは日 本 と同 じような四 角 の乾 海 苔 に抄 かれますが、ハイタンアマノリは細 かく裁 断 されずに厚 い円 形 の乾 海 苔 ( 直 径 20- 25cm) に仕 立 てられて市 場 に出 ます。
Q 11-「岩のり」と「青のり」は違うものですか?
A-「 あおのり」 (青 のり)は、ボウアオノリ、スジアオノリ、ウスバアオノリ、ヒラアオノリなど、緑 藻 アオサ科 のうち、少 なくとも基 部 が管 状 となる種 類 ( 多 くはアオサ属 ) の総 称 です。これに対 して、「 岩 のり」 は、紅 藻 アマノリ類 の海 藻 のうち天 然 の岩 やコンクリートブロックに着 生 しているものを指 します。
「 岩 のり」 の主 な種 類 は、オニアマノリ、スサビノリ、ウップルイノリなどで、コンクリートの塗 布 やブロックの設 置 による「 のりはた(のり畑 )」 の造 成 も各 地 で盛 んに行 われています。このような天 然 のアマノリを「 養 殖 ノリ」 に対 して「 岩 ノリ (岩 のり、岩 海 苔 )」 と呼 んでいます。
網 を交 換 できる「 養 殖 ノリ」 と異 なり、「 岩 ノリ」 は岩 の面 をきれいに保 っておく必 要 があり、海 苔 の胞 子 の着生 に先 立 ち磯 掃 除 が行 われます。「 養 殖 ノリ」 は機 械 により収 穫 されますが、「 岩 ノリ」 は手 摘 みされます。
Q 12-「心太」と書いて「トコロテン」と読むのはなぜですか?
A-「 心 太 ( トコロテン) 」 の語 源 については、「 古 古 呂 布 度 ( ココロブト) 」 がココロテイと訛 り、さらに転 じてトコロテンに変 ったのであろうと言 われています。
「 心 太 」 とい う文 字 は古 訓 のココロブトに対 する当 て字 ですが、トコロテンと呼 ばれるようになった現 在 でも依 然 として使 用 され、トコロテンと読 まれています。
また、石 川 県 能 登 地方 には、少 なくとも昭 和 初 期 まで「 ココロフト」 という言 葉 が使 われていた地 区 があったといいます。
なお、ココロブトというのはテングサの古 名 ブトグサ( 大 凝 菜 ) に由来 する言 葉 で「 凝 り(コゴリ)たるブトグサ」 の意 味 と考 えられます。
Q 13-「鰐浦こんぶ」はコンブですか?
A-「対 馬 の北 端 にある鰐 浦 で漁 穫 され出 荷 されている通 称 「 鰐 浦 こんぶ」 は、コンブに 似 た 形 を し て い ま す が 学 術 的 に は コ ン ブ Saccharina の 仲 間 で は な く ワ カ メUndaria の仲 間 です。
学 名 はアオワカメ Undaria peterseniana と言 います。コンブもワカメも褐 藻 コンブ目 ( もく) の海 藻 ですが、コンブは「 コンブ科 コンブ属 」 に、ワカメは「 チガイソ科 ワカメ属 」 に属 します。アオワカメは、中 肋 に相 当 する部 分 が幅 広 く帯 状 に厚 くなっていますが、葉 状 部 は羽 状 に分 裂 せず、胞 子 葉 ( 成 実 葉 )はなく、子 嚢 は葉 状 部 の両 面 に生 じます。アオワカメは、北 海 道 南 部 、本 州 太 平洋 岸 中 部 、本 州 日 本 海 岸 、九 州 、韓 国 済 州 島 などの沿 岸 に分 布 することが知 られており、タイプ産 地 は長 崎 県 五 島 列 島 です。
コンブは主 に北 海 道 沿 岸 および本 州 東 北 地 方 太 平 洋 沿 岸 に分 布 します。) なお、アオワカメは近 縁 のワカメと交雑 でき、遺 伝 子 でも違 いが少 ないため、ワカメと同 種 とも考 えられています。
Q 14-「磯焼け」って何ですか?
A-海 の沿 岸 部 に生 育 する海 藻 の群 落 が衰 退 もしくは消 失 して、魚 介 類 が減 少 の成長 に影 響 を及 ぼし、漁 業 生 産 が著 しく減 少 することを「 磯 焼 け」 と呼 んでいます。
狭 義 には大 型 褐 藻 のアラメ、カジメ、サガラメ、コンブ類 、ホンダワラ類 ( これら大型 海 藻 の群 落 は「 海 中 林 」 と 呼 ばれる ) や紅 藻 のテングサ類 などの海 藻 群 落 の極 端 な 減 少 や 消 失 を 指 し ま す が 、 広 義 に は こ れ ら 海 藻 群 落 ( 魚 介 類 の 餌 、 産卵 ・ 保 育 ・ 生 息 の場 ) の減 少 ・ 消 失 が魚 介 類 生 産 の減 少 を招 くことまでを含 みます。
「 磯 焼 け」 はもともとは静 岡 県 伊 豆 東 海 岸 地 方 の漁 民 が使 っていた言 葉 で、海 藻 学 者 の遠 藤 吉 三 郎 (1911)がその著 書 「 海 産 植 物 学 」 の中 で伊 豆 東 海 岸 のテングサ漁 場 の荒 廃 について紹 介 したことから広 く使 われるようになりました。
大型海藻が消 失 したあとにサンゴモ( 無 節 石 灰 藻 ) が海 底 を覆 い、海 底 が白 っぽく見 えるようになることがありますが、必 ずしもサンゴモで海 底 が白 っぽく見 えることだけを指 すのではありません。
海藻群落の消 失 は、古 くは淡 水 流 入 による塩 分 低 下や海 水 の汚 濁 が原 因 として挙 げられていましたが、現 在 は、海 水 温 の上 昇 、動 物による食 害 ( 摂 食 圧 ) 、砂 泥 の堆 積 、台 風 による流 失 などが重 要 な要 因 と考 えられています。
古 くから知 られていたのは、伊 豆 半 島 の南 東 部 で黒 潮 流 軸 の接 岸に伴 う水 温 上 昇 の影 響 を受 けてアラメ・ カジメやテングサの群 落 が消 失 し、その影響 でアワビなどの漁 獲 が著 しく低 下 する現 象 で、上 に述 べたように「 磯 焼 け」 という呼 び名 もこの地 方 に起 源 があります。
ウニの食害によりコンブやアラメ・ カジメの群 落 が消 失 することもかなり以 前 から知 られていました。また、近 年 では海 水 温 上昇 の た め と 考 え ら れ て い ま す が 、 南 方 系 の 植 食 性 魚 類 が こ れ ま で よ り 北 上 す る( あるいは低 水 温 期 でも留 まる) ようになり、大 型 海 藻 に大 きな食 害 を及 ぼすため「 磯 焼 け」 が生 じると判 断 されるケースが九 州 沿 岸 や静 岡 県 沿 岸でも知 られるようになっています。
このような植 食 動 物 を除 去 したり、海 藻 に接 近 できないようにしたりして、「 磯 焼 け」 を防 ぐ実 験 的 な研 究 も行 われています。
Q 15-「寒天」と「ところてん(心太)」はどう違うのですか?
A-寒 天 の原 料 になる海 藻 を「 寒 天 原 藻 」 と 言 います。日 本 の寒 天 原 藻 の主 なものは 、 紅 藻 の テ ン グ サ ( マ ク サ 、 オ オ ブ サ 、 オ ニ ク サ 、 ヒ ラ ク サ な ど テ ン グ サ 属( Gelidium) やオバクサ( Pterocladiella) などテングサ目 海 藻 の総 称 ) 、オゴノリ属( Gracilaria) 、イギス・ エゴノリ類 などです。国 外 からは、テングサ属 、オゴノリ属 その他 の紅 藻 が寒 天 原 藻 として輸 入 されています。
寒 天 原 藻 を相 当 量 の水 でよく煮 て、布 で濾 すと「 ところてん液 」 と呼 ばれる寒 天 ゾルが得 られます。煮 る時 に少量 で適 量 の硫 酸 などの酸 を加 えると、海 藻 がよく煮 えて海 藻 に含 まれていた寒 天質 がよく溶 け出 してき ます。
「 ところてん液 」 は、普 通 は寒 天 質 1% くらい と 水 分99% くらいで構 成 されています。これを室 温 に置 くと、やがて冷 えて固 まり「 ところてん」 と呼 ばれる寒 天 ゲルになります。この水 をたっぷり含 んだ「 ところてん」 を脱水 ・ 乾 燥 して干 物 にしたものがいわゆる「 寒 天 」 です。
脱 水 ・ 乾 燥 の方 法 には、大きく分 けて「 冷 凍 法 」 と「 圧 搾 脱 水 法 」 ( 非 冷 凍 法 ) があります。どちらも日 本 で考案 された技 術 です。冷 凍 法 は伝 統 的 な方 法 で、自 然 の寒 さを生 かして凍 結 ・ 乾燥 させるものであり、出 来 上 がったものは「 天 然 寒 天 」 とも呼 ばれます。
これに対 し、圧 搾 脱 水 法 は工 業 施 設 で圧 力 と温 度 によって強 制 的 に脱 水 ・ 乾 燥 させる方 法で 、 出 来 上 が っ た も の は 「 工 業 寒 天 」 と も 呼 ば れ ま す 。 機 械 施 設 で 人 工 的 に 凍結 ・ 乾 燥 する「 冷 凍 法 による工 業 寒 天 」 もありますが、凍 結 ・ 乾 燥 の基 本 原 理 は天 然 寒 天 の場 合 と変 わりありません。
要するに、寒 天 質 を含 む原 料 海 藻 ( 寒 天 原藻 ) を水 でよく煮 て寒 天質を溶 け出 させた液 を冷 やして固 めたものが「 ところてん」( 心 太 ) であり、それを脱 水 ・ 乾 燥 したものが「 寒 天 」 です( 「 心 太 」 については Q12 を参 照 ) 。
出 来 上 がった寒 天 は、角寒天 、細寒天 ( 糸寒天 ) 、粉寒天 ( 粉末寒 天 ) 、フレーク状寒天 などの形で市販されています。
Q 16-「寒天」と「ところてん(心太)」はどう違うのですか?
A-褐 藻 シオミドロ目 カヤモノリ科 セイヨウハバノリ属 ( Petalonia) に属 するハバノリ( Petalonia binghamiae ) の こ と 。 か つ て は ハ バ ノ リ 属 ( Endarachne ) に 属 しEndarachne binghamiae とされていました。
外 洋 に面 する岩 盤 の潮 間 帯 に生 育する幅 2~ 3cm、長 さ 8~ 13cm の葉 状 の海 藻 です。秋 に芽 生 え、冬 季 中 によく繁 茂 し、春 に成 熟 して晩 春 に枯 れて流 失 する。太 平 洋 沿 岸 では宮 城 県 金 華 山以 南 に、日 本 海 沿 岸 では佐 渡 以 南 に、韓 国 南 部 ・ 九 州 ・ 琉 球 諸 島 の沿 岸 に分布 しています。
産 地 では生 鮮 のまま味 噌 汁 の実 などにされていますが、多 くは粗製 の抄 製 品 ( 乾 燥 品 ) として販 売 されています。乾 燥 品 はちぎって味 噌 汁 に入 れたり、焼 いて( あぶって) 酒 のつまみにしたりします。国 内 全 般 に流 通 するほど一般 化 されてはいませんが、太 平 洋 側 では千 葉 、神 奈 川 、伊 豆 諸 島 、伊 豆 半 島 などで、日 本 海 側 では鳥 取 、島 根 などで賞 用 されてきました。
「 はんば」 というのはいわゆる方 言 ( 地 方 名 ) で、関 東 地 方 ではハンバあるいはハバモ、徳 島 県 ではメンソ、鳥 取 県 出 雲 地 方 ではカシカメ、鳥 取 県 野 津 地 方 ではノツモバなどの呼 び名 で主に抄製品 が扱 われてきました。
Q 17-「みずこんぶ」(水こんぶ)とは?
A-天 然 のコンブは種 類 によって 1~ 4 年 の寿 命 がありますが、多 年 生 の種 類 で葉状 部 が肉 厚 のコンブになるのは 2 年 目 以 降 です。1 年 目 の葉 状 部 は肉 が薄 くて柔 らかく、単 位 面 積 当 たりの重 量 が軽 い( 細 胞 内 容 が充 実 しておらず「 実 入 り」がよくない) コンブであり、このようなコンブは「 みずこんぶ」 と呼 ばれてきました。
出し昆 布 や昆 布 の佃 煮 に用 いられるのは 2 年 目 以 上 の「 実 入 り」 のよいコンブです。コンブ養 殖 が行 われるようになってから研 究 が進 み、2 年 かけないでも「 実 入り」 がよくなる「 促 成 栽 培 」 の技 術 が開 発 され、北 海 道 などで実 用 化 されています。
しかし、近 年 、一 般 家 庭 では料 理 に時 間 をかけることが少 なく、コンブを長 時 間 かけて煮 ることが敬 遠 される傾 向 が強 くなり、1 年 ものの柔 らかいコンブをワカメなどと同 じように短 時 間 煮 て食 べることが普 通 になっています。このため、1 年 ものの養 殖 コンブの利 用 と販 路 が拡 大 されるようになってきました。従 って、1 年 ものが「 みずこんぶ」 と呼 ばれることは殆 んどない。ちなみに、北 海 道 ・ 東 北 以 外 でのコンブ養 殖 の試 みは 1960 年 代 に瀬 戸 内 海 で始 まり、収 穫 も行 われましたが、当 時1 年 コンブは「 “水 こんぶ”など利 用 価 値 がない」 として見 向 きもされない状 況 にあったようです。
Q 18-わかめ(若布)の製品にはどのようなものがありますか?
A-褐 藻 ワカメ (Undaria pinnatifida) から作 られる「 わかめ(若 布 )製 品 」 には主 に次のようなものがあります。
(1) 生 わかめ: 収 穫 した天 然 または養 殖 ワカメ( 原 藻 ) の生 ( なま) のままのもの。わかめが収 穫 される旬 にのみ販 売 される。
(2) 素 干 しわかめ: 原 藻 を海 水 又 は真 水 で洗 浄 して、そのまま乾 燥 したもの。乾燥 途 中 で中 肋 を二 つ裂 きにする。北 海 道 、東 北 地 方 の特 産 品 。
(3) 板 わかめ: 若 い原 藻 をすのこやすだれの上 で平 面 状 に整 えて乾 燥 したもの。さっと火 で炙 って手 で揉 んで細 かくしてご飯 にふりかけて食 べたりする。山 陰 地 方の特 産 品
(4) 灰 干 しわかめ: 原 藻 に草 木 灰 をまぶして一 度 乾 燥 し、水 洗 いしてから再 度 乾燥 したもの。灰 の効 果 で湯 通 ししなくても色 調 は緑 色 となり、食 感 も維 持 され、保存 性 も向 上 する。鳴 門 地 方 の特 産 品 。
(5) 湯 通 し塩 蔵 わかめ: 原 藻 を湯 通 ししてから冷 水 で冷 やし、塩 蔵 したもの。塩蔵 後 に中 肋 の除 去 、選 別 を行 う。わかめの一 次 加 工 品 と して定 着 し、我 国 のみでなく、韓 国 、中 国 でも同 様 の加 工 が行 われている。小 分 け包 装 したものは「 生わかめ」 という名 称 で販 売 されている。
(6) 生 食 わかめ(戻 しわかめ): 湯 通 し塩 蔵 わかめを水 戻 しして、可 食 状 態 でトレー包 装 などをしたもの。
(7) カットわかめ: 湯 通 し塩 蔵 わかめをきれいに洗 浄 して、食 べやすい大 きさに裁 断 して乾 燥 し、異 物 をきれいに取 り除 いたもの。みそ汁 などの料 理 にそのまま使 えるので、現 在 ではわかめ製 品 の主 体 となっている。わかめスープ、わかめラーメンなどカットわかめを使 った三 次 加 工 品 も販 売 されている。
(8) 冷 凍 わかめ: 原 藻 を湯 通 ししてから冷 水 で冷 やし、そのまま急 速 凍 結 させたもの。原 藻 のシャキシャキとして食 感 がそのまま残 っており、中 肋 も一 緒 に食 べることができる。
Q 19-有毒な海藻はありますか?
A-藻 の中 には有 毒 物 質 を持 つものは基 本 的 にはありません。ただし、例 外 として、1980 年 代 後 半 に注 目 されるようになった緑 藻 イワヅタ属 ( Caulerpa) の一 種 イチイヅタ( C. taxifolia) で毒 性 を持 つようになった変 異 型 の「 キラー海 藻 ( killer algae) 」と呼 ばれているものがあります (Q8 参 照 )。
このようなものを除 けば、おいしいかどうかは別 にして、一 般 的 には海 藻 はすべて食 べられます。しかし、褐 藻 のウルシグサ( Desmarestia ligulata) の仲 間 のように硫 酸 塩 などを多 量 に含 むために渋 味 が非常 に強 い( 酸 性 度 が非 常 に高 い) ものは食 用 には向 きません。
また、有 毒 物 質 を含む魚 卵 が海 藻 に産 みつけられることがありますから、そのような海 藻 は注 意 が必 要です。
普 通 の海 藻 を食 べて食 中 毒 を起 こした事 件 は知 られていません。ただし、海藻 に付 着 して生 活 している小 動 物 ( ワレカラ類 など) を含 む海 藻 に対 するアレルギーのある人 は、海 藻 食 には注 意 する必 要 があります。
なお、オゴノリやモズクでは高齢 の女 性 が生 食 した場 合 に食中毒を起 こした事 例 がありますので、採 集 したばかりのこれらの藻体を処理せずに食 べることは控 えた方 がいいでしょう。
Q 20-「とろろこんぶ」(商品名)はトロロコンブ(種名)からつくられますか?
A-褐 藻 コンブ科 のコンブ属 にはトロロコンブ( 学 名 Saccharina gyrata) という種 類 があります。食 品 として販 売 されている「 とろろこんぶ」 は上 記 のトロロコンブではなく、マコンブなどの乾 燥 品 で規 格 外 のいわゆる“雑 こんぶ” の肉 厚 のものを稀 薄 な酢で軟化伸展し、包丁 または鉋 ( かんな) で薄く削ったものです。
色 素 の多 い表 層の部 分 は“黒 とろろ”または“おぼろこんぶ”( 朧 昆 布 ) と呼 ばれるものに、髄 層 の部分 は上 質 の“白 とろろ”と呼 ばれるものになります。
なお、天然コンブの産 地 は北海道沿岸及び東北地方太平洋沿岸であり、北海道 、青森県 、岩手県の沿岸に生育す主要な有用コンブ類は、マコンブ( S. japonica) 、オニコンブ( S. japonicavar. diabolica ) 、 リ シ リ コ ン ブ ( S. japonica var. ochotensis ) 、 ホ ソ メ コ ン ブ ( S.japonica var. religiosa ) 、 ミ ツ イ シ コ ン ブ ( S. angustata ) 、 ナ ガ コ ン ブ ( S.longissima) 、ガッガラコンブ( S. coriacea) 、ガゴメ( S. sculpera) 、チヂミコンブ( S.cichorioides ) 、 ネ コ ア シ コ ン ブ ( Arthrothamnus bifidus ) 、 ス ジ メ ( Costariacostata) の8 種 3 変 種 です。
Q 21-カワノリは淡水産ですか?
A-日 本 のカワノリ Prasiola japonica は、唯 一 日 本 海 側 の抜 井 川 を除 き、すべて本州 中 部 ( 栃 木 県 ) から九 州 にいたる各 地 の太 平 洋 側 に注 ぐ河 川 の上 流 の清 澄 な渓 流 の岩 や大 きな石 ( 主 に石 灰 石 ) に着 生 している鮮 やかな緑 色 を呈 する葉 状の淡 水 産 緑 藻 で、夏 ( 8 月 ) から秋 ( 11 月 ) にかけて採 取 される。
栃 木 県 の大谷川 、埼 玉 県 の荒 川 、東 京 都 の多 摩 川 、静 岡 県 の富 士 川 、高 知 県 の四 万 十 川 、熊 本 県 の菊 池 川 などの上 流 にあたる渓 流 が古 くからよく知 られた産 地 であるが、近 年 の開 発 や汚 染 などが原 因 で生 育 が見 られなくなったところが多 い。
高 知 県 の島 ノ川 渓 谷 や岩 屋 川 渓 谷 のものは「 セイラン」 と呼 ばれて珍 重 されている。また、大 分 県 で は 「 陽 目 カ ワ ノ リ 」 が 県 の 天 然 記 念 物 に 指 定 さ れ て い る 。 製 品 は 海 苔( アマノリ) と同 じような板 状 に抄 いて乾 燥 したものが焼 いて食 用 に供 される。新 鮮な乾 燥 品 は美 味 で甘 味 があり、高 値 で販 売 されるが、大 量 に市 場 で取 引 されることはなく、ごくローカルなものである。
また、乾 燥 製 品 のサイズはまちまちで一 定 していない。焼 き海 苔 のほか、酢 の物 ( 三 杯 酢 ) 、吸 い物 ( 具 ) 、佃 煮 ( 醤 油 の煮 付け) などに用 いられる。食 用 の歴 史 はかなり古 く、 「 和 名 抄 ( 和 名 類 聚 抄 ) 」 ( 承平 年 間 、931-938) には“水 苔 ”( かわな) として記 載 されている。
鎌 倉 時 代 には特産 品 として「 芝 川 のり」 が知 られ、戦 国 時 代 には「 富 士 のり」 が武 田 信 玄 により朝廷 に献 上 されるなど、武 家 や上 流 階 級 に食 品 として茶 席 などで用 いられたようである。カワノリ( P. jonica) は日 本 特 産 のカワノリ目 カワノリ科 カワノリ属 の淡 水 緑 藻であるが、Prasiola( カワノリ属 ) に属 する藻 類 は、世 界 的 には極 地 から温 帯 地 域にいたる河 川 や海 の沿 岸 ( 潮 間 帯 最 上 部 ~ 飛 沫 帯 ) に分 布 することが知 られている。
Prasiola として現 在 までに報 告 されているのは 52 種 であるが、このうち分類 学 的 に正 式 に認 められているのは 35 種 である。
Q 22-「のりの佃煮」の原料海藻は何ですか?
A-主 に壜 づめの形 で販 売 されている伝 統 的 な「 のりの佃 煮 」 の原 料 は、紅 藻 のノリ( アマノリ) ではなく緑 藻 ヒトエグ サ属 ( Monostroma) の海 藻 です。ヒトエグサの仲間 は主 に内 湾 ・ 河 口 域 の淡 水 が少 し混 じる海 域 に生 育 しています。
このような場所 では、アマノリ類 と同 じように栽 培 ( 養 殖 ) が行 われています。主 な栽 培 種 はヒロハノヒトエグサです。ヒトエグサ類 はアマノリ類 と違 う独 特 の香 りがあって柔 らかく、古 くから佃 煮 の原 料 として用 いられてきました。鹿 児 島 県 や沖 縄 県 などを中 心 に潮 間 帯 で採 集 される天 然 の緑 藻 は「 アオサ」 ( 「 アーサ」 ) と呼 ばれ食 用 にされますが、これもヒトエグサ類 で汁 の実 などに使 われる美 味 しい海 藻 です。
しかし、近年 ではアマノリ類 を原 料 とした佃 煮 も作 られ、ヒトエグサ類 と同 じように壜 詰 めにして販 売 されています。養 殖 アマノリ類 を使 ったものや、あるいは天 然 のアマノリ類( 「 岩 ノリ」 ) を原 料 としたものがあります。大 変 紛 らわしいのですが、ヒトエグサ類 は通 称 「 アオ」 ( 「 青 海 苔 」 ) と呼 ばれますので、アオサ・ アオノリ類 ( Ulva) と混 同 しないよう注 意 が必 要 です。
Q 23- "ドゥルー祭"について教えて下さい。
A-イギ リスの海 藻 学 者 キャスリーン ・ メアリ ー・ ド ゥル ー女 史 ( Cathleen Mary DrewBaker) のノリの糸 状 体 に関 する研 究 業 績 を記 念 して、毎 年 4 月 14 日 に熊 本 県宇 土 市 の 住 吉 神 社 境 内 に あ る 記 念 碑 前 で 行 わ れ ま す 。
ド ゥ ル ー 女 史 は 1901年 ランカシャーに生 まれ、マンチェスター大 学 を卒 業 、同 大 学 の講 師 を 2 年 間勤 めたのち米 国 カリフォルニア大 学 で 2 年 間 海 藻 の研 究 を行 い、帰 国 して母 校工 学 部 のベイカー教 授 と結 婚 、1939 年 には Doctor of Science の学 位 を受 けました。
女 史 は主 に紅 藻 類 の発 生 と細 胞 学 に関 するすぐれた論 文 を多 数 発 表 しています。1952 年 、英 国 藻 類 学 会 の創 立 に努 力 し、初 代 会 長 となりました。日本 のノリ養 殖 との関 連 では、紅 藻 アマノリ類 の糸 状 体 の発 見 ( 1949) が特 筆 すべきものです。
日 本 のノリ養 殖 産 業 は、人 工 採 苗 技 術 が確 立 されるまでは自 然 任せ の 胞 子 着 生 に 頼 っ て い ま し た 。 ド ゥ ル ー 女 史 に よ っ て ア マ ノ リ 類 の 一 種Porphyra umbilicalis の果 胞 子 が海 底 の貝 殻 に潜 り込 み糸 状 体 ( かつては別 種の海 藻 Conchocelis rosea とされていた) という世 代 で夏 季 を過 ごすことが発 見 され、ノリの一 生 ( 生 活 史 ) が明 らかになりました。
女 史 と親 交 のあった九 州 大 学 の瀬 川 宗 吉 教 授 からこのことを聞 いた熊 本 県 水 産 試 験 場 の太 田 扶 桑 男 技 師 は、研 究 を重 ねた末 に日 本 のノリで人 工 採 苗 ( 貝 殻 に果 胞 子 を潜 らせて室 内 培 養 した糸 状 体 から放 出 される殻 胞 子 をノリ網 に着 生 させる技 術 ) に成 功 しました。
この成 功 は、瀬 川 教 授 を通 じてドゥルー女 史 に伝 えられ、日 本 の海 苔 漁 民 のために喜 びあったとのことです。瀬 川 教 授 は日 本 のノリの人 工 採 苗 を女 史 に見 せたいと思 っていましたが、女 史 は 1957 年 9 月 に 56 歳 の若 さで突 然 亡 くなりました。教授 は大 変 悲 しみ、「 日 本 の海 苔 養 殖 業 に大 きな進 歩 をもたらした偉 大 な業 績 を記 念 する ために是 非 女 史 の記 念 碑 を造 りたい」 と言 っていましたが、1960 年 に瀬 川 教 授 も 56 歳 で突 然 逝 去 されました。
ドゥルー女 史 を恩 人 と称 える海 苔 漁 民は瀬 川 教 授 の遺 志 を受 け継 ぎ、全 国 の海 苔 関 係 者 から浄 財 を募 り、日 本 一 のノリ漁 場 である有 明 海 が一 望 できる宇 土 市 住 吉 町 の海 岸 に面 する小 高 い丘 ( 住 吉神 社 敷 地 内 ) に 女 史 の 顕 彰 碑 を 建 立 し ま し た 。 そ の 除 幕 式 は 1963 年 4 月14 日 に行 われ、漁 民 の行 為 に感 動 した女 史 の夫 ライト・ ベイカー氏 も出 席 し、女史 の学 位 授 与 の証 であるガウンと帽 子 を漁 民 に提 供 しました。
これ以 来 、海 苔 関係 者 は毎 年 4 月 14 日 を“ドゥルー祭 ”と称 して顕 彰 を続 けています。 ( 主 として、ドゥルー女 史 生 誕 100 年 記 念 事 業 実 行 委 員 会 , 2001, 「 キャスリーン・ メアリー・ ドゥルー・ ベーカー女 史 」 から引 用 )
Q 24- ""ISA"と"ISS"について教えて下さい。
A-ISA は International Seaweed Association ( 国 際 海 藻 協 会 ) 、 ISS はInternational Seaweed Symposium( 国 際 海 藻 シンポジウム) の略 です。国 際 海藻 協 会 は、海 藻 の応 用 研 究 ( 利 用 ) と基 礎 研 究 に関 する研 究 成 果 の発 表 と交 流を目 的 として、世 界 各 国 の持 ち回 りで国 際 海 藻 シンポジウムを主 催 しています。
第 1 回 は 1952 年 にスコットランドのエジンバラで開 催 されました。以 後 、ほぼ3 年 毎 に開 催 されており、2019 の 4 月 には済 州 島 ( 韓 国 ) で第 32 回 が開 催されました。
日 本 では、1971 年 に第 7 回 を札 幌 で、2007 年 に第 19 回 を神戸 で開 催 しています。毎 回 の参 加 登 録 者 を ISA 会 員 とし、参 加 登 録 費 の一 部が ISA の運 営 に用 いられています。原 則 として次 回 の ISS までが会 員 の有 効期 間 で、次 の ISS の参 加 案 内 ( ファースト・ サーキュラー) が届 きます。ISA の運営 に つ い て は 、 12 名 の メ ン バ ー か ら 成 る ISA Council が そ の 中 か ら 会 長( President) と副 会 長 ( 次 期 会 長 President-elect) を選 出 し、その下 で協 議 が行われ、事 業 が実 施 されます。
Council メンバーの任 期 は 3 期 9 年 以 上 12 年までとされ、欠 員 が生 じた場 合 は専 門 分 野 や地 域 等 を考 慮 して複 数 の候 補 者 が推 薦 され、メンバーの投 票 により後 任 が決 定 されます。
ISA Council は ISS 開催 直 前 に会 合 を持 ち、主 要 な役 目 は次 の ISS 開 催 地 を決 め連 続 性 を維 持 することです。ISS における研 究 発 表 の内 容 は Proceedings of the International Seaweed Symposium として毎 回 出 版 されています。
ISA および ISS に関 する詳 細 は( http://www.isaseaweed.org) をご覧 ください。
Q 25- 「すいぜんじのり」ってどんなノリですか?
A-古 くは「 水 前 寺 苔 」 ( 熊 本 市 外 上 益 城 、六 嘉 村 ) 、「 紫 金 苔 」 ( 久 留 米 市 国 分 町 ) 、「 寿 泉 苔 」 ( 福 岡 県 甘 木 市 金 川 町 ) 、「 秋 月 苔 」 ( 福 岡 県 甘 木 市 秋 月 町 ) などの製品 名 で売 られていたもので、藍 藻 ( シアノバクテリア) のクロオコックス目 クロオコックス科 アファノテーケ属 に属 する淡 水 産 のスイゼンジノリ Aphanothece sacrum を原料 とする厚 紙 状 の乾 燥 品 のことです。
熊 本 県 水 前 寺 の名 物 として古 くから知 られていました。和 名 スイゼンジノリはその産 地 であった水 前 寺 公 園 の名 称 に由 来 します。スイゼンジノリは、外 形 が円 形 または円 に近 い不 定 形 の平 たい群 体 ( 暗 緑 色 ~ 緑褐 色 、径 5~ 7cm 程 度 で表 面 は多 少 凹 凸 があり、外 皮 はやや硬 く、断 面 の厚 さ0.5~ 2mm) を形 成 し、水 中 に浮 遊 して生 育 しています。群 体 内 部 の寒 天 質 の中 に多 数 の細 胞 ( 繭 状 の楕 円 体 で幅 3~ 4 μ m、長 さ 6~ 7 μ m) が散 在 し、細 胞 は二 分裂 を繰 り返 して無 性 的 に増 え、細 胞 外 に粘 質 物 を分 泌 して、群 体 が肥 大 します。
群 体 は大 きくなると自 然 にちぎれて群 体 の数 が増 えます。現 在 の自 生 地 は、熊 本市 の上 江 津 湖 と八 景 水 谷 の湧 水 地 だけです。環 境 省 の絶 滅 危 惧 種 レッドリストに掲 載 されている天 然 記 念 物 です。
現 在 、熊 本 県 嘉 島 町 では阿 蘇 の伏 流 水 を利 用して養 殖 が行 われ、生 産 品 が「 水 前 寺 のり」 として販 売 されています。また、福 岡 県甘 木 市 ( 現 、 朝 倉 市 ) で は 、 1760 年 頃 に す で に 本 種 の 生 育 が 知 ら れて い て 「 川茸 」 と呼 ばれていましたが、現 在 は清 澄 な湧 水 の流 れる黄 金 川 ( こがねがわ) で企業 的 な養 殖 が行 われ、生 産 品 は「 水 前 寺 のり」 あるいは「 寿 泉 苔 」 として販 売 されています。
養 殖 した藻 体 の収 穫 は 4~ 11 月 に行 われ、収 穫 した藻 体 は清 水 で洗 い、ご み や 小 石 な ど の 夾 雑 物 を 除 き 、 細 断 し て 瓦 に 鏝 ( こ て ) で 塗 り つ け て 乾 燥 さ せ20×30cm 程 の厚 紙 状 に仕 上 げたものが販 売 されています。
また、塩 蔵 品 や粉 末状 のものも販 売 されています。乾 燥 品 は水 に戻 してから刻 み、懐 石 料 理 や精 進 料理 の膳 で食 用 にされます。塩 蔵 品 は酢 の物 や吸 い物 として食 用 にされるほか、砂糖 漬 けや佃 煮 にも加 工 されています。
Q 26- サンゴにはどんな藻類が共生しているのですか?
A-腔 腸 動 物 のサンゴの体 内 には渦 鞭 毛 藻 類 ( うずべんもうそうるい) のゾーキサンテラ( zooxanthella) が共 生 しています。
ゾーキサンテラ( ゾーザンテラ) は褐 虫 藻 とも呼 ばれ、海 産 無 脊 椎 動 物 ( クラゲ、シャコガイ、イソギンチャク、サンゴなど) や原生 動 物 の細 胞 内 に共 生 しています。代 表 的 な属 は Symbiodinium, Amphidinium,Gymnodinium などです。
渦 鞭 毛 藻 類 は 2 本 の鞭 毛 をもつ単 細 胞 藻 類 の一 群 ですが、褐 虫 藻 は大 きさ約 10 μ m (マイクロメーター) で黄 褐 色 をしており、共 生 状態 では球 形 で、宿 主 から離 れて外 に出 ると卵 形 で鞭 毛 をもちます。
光 合 成 色 素( クロロフィルやキサントフィルなど) をもち、光 を受 けてつくった光 合 成 産 物 ( グリセロール、グルコース、アラニンなど) の一 部 を宿 主 に渡 しています。
Q 27- オイルをつくる藻類があるというのは本当ですか?
A-微 細 藻 類 の中 には体 内 に油 を持 っているものがあることは古 くから知 られており、特 にある種 の珪 藻 は体 内 に油 滴 を持 っているので、それを取 り出 してエネルギー源 として利 用 しようとする試 験 研 究 は 20~ 30 年 前 にもありました。しかし、種 々の困 難 な課 題 があり、実 用 には至 りませんでした。近 年 、世 界 で注 目 されているのは房 状 の群 体 を形 成 するボトリオコッカス属 ( Botryococcus) の緑 藻 で、ボトリオコッカス ブラウニー( B. braunii) は重 油 に相 当 するオイル( 炭 化 水 素 ) をつくることが知 られています。
B. braunii は世 界 各 地 の淡 水 の湖 沼 やダムなどに生 息 しており、オイルを直 接 つくりだす生 物 として注 目 されている。ボトリオコッカスは細 胞内 でつくりだしたオイルを細 胞 外 に分 泌 して群 体 内 に蓄 積 するので、これを取 り出 して利 用 することが検 討 されています。
オイル含 量 は乾 燥 重 量 の 60% に達 することがあります。ボトリオコッカスの細 胞 は幅 5~ 14 μ m、長 さ 8~ 20 μ m で、くさび形 ないし楕 円 形 をしており、1 個 の葉 緑 体 を持 っています。ブドウの房 状 の群体 は大 きさ 30~ 200 μ m の球 形 ないし楕 円 形 で、時 には 1mm に達 することもあります。
現 在 、培 養 株 を用 いて、増 殖 速 度 を高 めること、オイル含 量 を高 めることなどの研 究 が進 められているほか、天 然 水 域 からオイル生 産 性 の高 い種 を探 索する研 究 などが行 われています。ボトリオコッカス以 外 にもオイルをつくる微 細 藻類 が知 られており、世 界 各 国 でこのようなオイルをつくる藻 類 の研 究 が進 められています。
Q 28- ジャイアントケルプはコンブの仲間ですか?
A-世 界 最 大 の 海 藻 と い わ れ る ジ ャ イ ア ン ト ケ ル プ ( giant kelp ) は オ オ ウ キ モ( Macrocystis pyrifera) という種 類 で、褐 藻 コンブ目 に属 します。コンブ目 の中 にはコンブモドキ科 、チガイソ科 、コンブ科 、レッソニア科 などがありますが、ジャイアントケルプはコンブ科 オオウキモ属 に分 類 されます。オオウキモ属 には、ほかに M.angustifolia、M. laevis などが知 られていましたが、現 在 は M. integrifolia と同種 であることがわかっています。
オオウキモは、胞 子 体 は浮 遊 しているのではなく、水 深 20~ 30m の海 底 の岩 などに付 着 根 ( holdfast) で着 生 し、細 長 いササの葉状 の葉 ( blade) をつけた茎 状 部 ( stipe) が海 面 に向 ってまっすぐに伸 び、さらに成長 すると 先 端 部 は 海 面 に 浮 くかたちになります。
葉 のつけねのところ に気 胞 ( 浮き)( pneumatocyst) があって浮 力 を与 えています。体 長 は 60~ 70m に達 し、密生 した海 中 林 を形 成 します。北 米 太 平 洋 岸 ではアラスカからメキシコ北 部 ( カリフォルニア半 島 ) にかけて、南 米 太 平 洋 岸 ではペルーからホーン岬 にかけて、ニュージーランド沿 岸 やオーストラリア南 部 ( タスマニア) にも、また南 アフリカ沿 岸 やインド洋 南 部 のケルゲレン諸 島 沿 岸 にも生 育 しています。
成 長 が速 いこと、生 産 力が非 常 に高 いことでもよく知 られています。クロシスティスはアルギン酸 の原 藻 として大 量 に採 取 されてきたほか、北 米 カリフォルニア沿 岸 では石 油 に代 わるエネルギー源 としてメタンガスをとるため大 量 に採 取 されたこともあります。また、藻 体 は渋 みが強 いのでコンブのようには食 べられませんが、若 い葉 は少 量 ならば食 べることができます。
Q 29- マツモはどのような食べ物ですか?
A-マツモは「 まつぼ( 松 穂 ) 」とも呼 ばれ、若 い藻 体 は緑 褐 色 で、老 成 するにつれて黄 褐 色 または黒 褐 色 になる褐 藻 です。本 州 では太 平 洋 岸 の千 葉 県 犬 吠 埼 以 北 、北 海 道 を経 て千 島 北 端 にまで分 布 しています。
犬 吠 埼 付 近 では寒 中 のわずかな期 間 にだけ出 現 するが、北 に行 くにつれて生 育 期 間 が長 くなり、東 北 地 方 では晩 秋 から翌 春 にいたるまで岩 盤 上 の潮 間 帯 下 部 から下 方 の干 潮 線 の下 のわずかな範 囲 に生 育 しています。
主 に東 北 地 方 では、採 取 されたマツモは雑 海 藻 やゴミなどを取 り除 き、塩 蔵 、生 のままパック詰 めにした「 生 まつも」 、真 水 で塩 ぬきしてから抄 いて乾 燥 した「 干 まつも」 、これを火 であぶった「 焼 まつも」 などの製 品 で市 販 されています。
生まつもは熱 湯 を通 して酢 のも のとして食 べるか、味 噌 汁 の具 にすると美 味 です。焼 まつもは香 ばしい味 と香 りがあり、酒 のつまみにしたり、揉んで“ふりかけ”にしたりして食 べます。ビタミン B2 が豊 富 に含 まれ、高 血 圧 症 の予 防 効 果 が注 目 され、健 康 食 品 としての価 値 が高 まっています。
12 月 ~ 3 月 に採 取 される未 熟 なものが良 品 質 とされます。岩 手 県 では、ワカメやコンブに次 ぐ食用 海 藻 資 源 として期 待 され、1980 年 代 後 半 には天 然 マツモ生 産 量 は 25~ 30トン( 生 重 量 ) に達 しました。小 規 模 ですが養 殖 も行 われたことがあります。
マツモは、褐 藻 イソガワラ目 イソガワラ科 マツモ属 の海 藻 で、学 名 は Analipus japonicusです。不 規 則 に叉 状 に分 岐 する樹 枝 状 根 が複 雑 に絡 んだ塊 状 の座 から 1 本の細 い円 柱 状 あるいはわずかに扁 平 な主 枝 が立 ち上 がり、この主 枝 からいろんな方 向 に羽 状 に小 枝 が出 ており、体 長 は 20~ 25cm( 時 に 30cm) に達します。全体の形がマツのミドリ( 新 芽 ) に似 ていることから岩 手 県 地 方 ではマツボと呼 ばれ、これがマツモになったと言 われています。
Q 30- ノリの「種付け」って何ですか?
A-海 の沿 岸 部 で秋の終 りから春 先 にかけて行 われるノリ養 殖 のシーズンが始 まりました。このノリ養 殖 は、春 から夏 の間 に陸 上 の施 設 ( 温室 など) で培養 されていたノリ( 現在 の日本 では主にスサビノリ( Neopyropia yezoensis) の糸 状 体 ( “コンコセリ ス ” と 呼 ば れ る ) か ら 放 出 さ れ る 殻胞子 ( かくほうし ) を ノ リ 養 殖 用 の 網 ( “ ノリ あみ”)に着 生 させることを“種 付 け”( たねつけ) と言 います。
ノリ網 に着 生 した殻 胞子 が発 芽 して成 長 すると食 用 のノリになります。殻 胞 子 の発 芽 体 が若 い時 期 には単 胞 子 ( たんほうし) と呼 ばれる胞 子 を放 出 しますが、この胞 子 もノリ網 に着 生 して発 芽 ( “二 次 芽 ”と呼 ぶ) ・ 成 長 すると同 じように食 用 のノリになります。
ノリの生活環 は主 として水 温 と日 長 ( 光 周 期 ) によってコントロールされています。肉 眼 で見られる大 きさのノリ( “葉 状 体 ”と呼 ばれる) からは冬 の終 り~ 春 先 に顕 微 鏡 的 な大きさの果 胞 子 ( かほうし) が放 出 されますが、この果 胞 子 を陸 上 の施 設 内 でカキ殻にもぐりこませて培 養 すると、カキ殻 の中 に顕 微 鏡 的 な大 きさの糸 状 で枝 分 かれしたコンコセリスが繁 殖 します。
夏 の終り~ 初 秋 になると、このコンコセリスの枝 の先 に殻 胞 子 嚢 ( かくほうしのう) ができます。殻 胞 子 嚢 の中 には殻 胞 子 がつくられ、成 熟 すると上 記 のように殻 胞 子 が放 出 されます。この殻 胞 子 のことをタネと呼 び、この胞 子 を、海 に張 ったノリ網 あるいは陸 上 のタンクに設 置 した水 車 式 の枠 に巻きつけたノリ網 に着 生 させる作 業 が“種 付 け”または“採 苗 ”( さいびょう) と呼 ばれるものです。
前者 は“野 外 採 苗 ”、後 者 は“陸 上 採 苗 ”と呼 ばれ、現 在 は陸 上 採 苗 が主 流 となっています。殻 胞 子 の放 出 は 1 日 の中 では夜 明 け頃 がピークになるので、種 付 け( 採 苗 ) 作 業 は早 朝 に行 われます。
種 付 けが終 わったノリ網 は陸 上 のタンクでしばらく養 生 をしたのち、海 面 のノリ養 殖 漁 場 に張 って肉 眼 的 な小 さな芽( 幼 葉 状 体 ) に 成 長 し た 段 階 で 、 脱 水 し て か ら ポ リ 袋 に 入 れ て 冷 凍 庫 ( - 20 ~24℃) に保 管 します。種 付 け後 、タンクで養 生 したノリ網 を脱 水 し、ポリ袋 に入 れて冷 凍 庫 に保 管 する場 合 もあります。
また、タンクで養 生 したのち海 に出 して、そのままノリを成 長 させる場 合 もあります。いったん冷 蔵 したノリ網 は、冷 凍 庫 から適 宜出 してノリ養 殖 漁 場 に展 開 し、ノリが 20~ 30cm の長 さに成 長 すると摘 採 ( てきさい、摘 み取 り) が行 われます。種 付 けの作 業 は、かつては 9 月 の彼 岸 頃 に行 われていましたが、近 年 では温 暖 化 の影 響 もあって 1~ 2 週 間 遅 れの 10 月 初 旬頃 までに行 われるようになっています。
彼 岸 頃 から陸 上 採 苗 を行 っても、種 付 け後 直 ぐに海 に出 すことは少 なく、いったん冷 凍 庫 に保 管 することが多 くなっているようです。年 内 ( 11~ 12 月 ) に海 で育 てるのを“秋 芽 生 産 ”と呼 び、年 明 け後 に冷蔵 網 を海 に入 れて育 てるのを“冷 蔵 網 生 産 ”あるいは“冷 凍 ( 網 ) 生 産 ”と呼 んで区 別 しています。
摘 採 ( 摘 み取 り) 後 のノリは、洗 浄 、細 断 ( ミンチ) 、抄 製 ( 抄 き) 、乾 燥 、計 数 など一 連 の作 業 を経 て、乾 海 苔 ( ほしのり) に仕 上 げられます。一 連の作 業 は、すべて機 械 化 されており、最 終 段 階 では抄 製 工 程 を含 む“全 自 動 乾燥 機 ”によって乾 海 苔 がつくられます。
Q 31- 海藻はどのくらい海を浄化しますか?
A-海 の沿 岸 生 態 系 では植 物 プランクトンと共 に海 藻 と海 草 が一 次 生 産 者 として極めて重 要 な地 位 を占 めています。海 藻 の中 でも特 に大 型 の褐 藻 ( アラメ、カジメ、コンブ類 、ホンダワラ類 ) が形 成 する 海 中 林 ( 藻 場 ) は生 産 力 が高 く、年 純 生 産量 は 1~ 2.5 kgC/m2( ≒ 3.7~ 9.2 kgCO2/m2) と見 積 られます。
従 って、これに相 当 する 2.7~ 6.7 kgO2/m2・年 の酸 素 が海 中 林 から海 水 中 に放 出 されます。これは、海 藻 の平 均 的 な C:N:P 比 ( 213:13.5:1) に基 づけば 63~ 160 g/m2・ 年 の窒 素 (N)と 4.7~ 12 g/m2・ 年 のリン(P)が海 中 林 によって吸 収 ( 海 水 中 から除 去 )されることを意 味 します。
例 えば 1 ha の海 中 林 があれば、この海 中 林 によって 1年 間 に 海 水 中 か ら 37 ~ 92 ト ン の CO2 と 630 ~ 1,600 kg の 窒 素 と 47 ~120kg のリンが除 去 され、27~ 67 トンの酸 素 が海 水 中 に供 給 されることを示 しています。
このように、大 型 褐 藻 の群 落 は、生 産 力 が非 常 に高 い陸 上 植 物 群 落 に匹 敵 するような高 い生 産 力 を持 ち、沿 岸 水 域 の海 水 の浄 化 に大 きな働 きをしている重 要 な存 在 です。しかし、大 型 褐 藻 の寿 命 は最 大 でも 5~ 6 年 と短 いため、そのままにしておけば、やがては枯 死 し、分 解 されて二 酸 化 炭 素 や窒 素 やリンが海 水 中 に戻 されることになります。
すなわち、海 藻 が植 食 動 物 の食 物 になるか収穫 ( 刈 取 り) などによって除 去 されない限 り真 に海 水 を浄 化 したことにはなりません。
このような視 点 から藻 場 を構 成 する海 藻 の有 効 利 用 を図 ることが重 要 です。これに対 し、沿 岸 域 で行 われているノリ、ワカメ、コンブ、モズクなどの養 殖 では、海 藻は食 用 にするため収 穫 によって海 ( 養 殖 場 ) から陸 上 へと取 り上 げられます。
したがって、養 殖 場 でこれらの海 藻 によって吸 収 された海 水 中 の二 酸 化 炭 素 や窒 素やリンは海 水 中 から完 全 に取 り除 かれる( 海 水 が浄 化 される) ことになります。また、養 殖 場 では、これら海 藻 によって光 合 成 の結 果 として多 量 の酸 素 が海 水 中 に供給 されます。
例 えば、日 本 における近 年 の養 殖 ノリ生 産 量 は 80~ 100 億 枚 ( 乾燥 重 量 にして 2.4~ 3.0 万 トン) であり、これだけのノリが 11 月 から翌 年 3 月 までの 5 ヵ月 間 に生 産 ( 収 穫 ) されています。単 純 計 算 すれば、これだけのノリが光 合 成 によって吸 収 した二 酸 化 炭 素 ( CO2) は 35.3~ 44.1×103 トン、放 出 した酸 素 ( O2) は 25.7~ 32.1×103 トンとなります。
すなわち、5 ヵ月 間 のノリ養 殖 でおよそ 4.0 万 トンの二 酸 化 炭 素 が吸 収 され、およそ 2.9 万 トンの酸 素 が海 に供給 されたことになります。また、ノリの窒 素 (N)含 量 は乾 燥 重 量 のおよそ 6.3%、リン(P)含 量 は乾 燥 重 量 のおよそ 0.69%ですから、1.51~ 1.89×103 トンの窒 素 と166~ 207 トンのリンがノリ養 殖 によって海 水 中 から取 り除 かれ( 海 水 を浄 化 し) たことになります。
ノリ養 殖 によって極 めて大 量 の窒 素 とリンが沿 岸 域 の海 水 中 から除 去 されていることは明 らかです。すなわち、およそ 5 ヵ月 間 のノリ養 殖 によって沿 岸 域 の海 水 中 からおよそ 2,000 トンの窒 素 とおよそ 200 トンのリンが除 去 され、およそ 2.9 万 トンの酸 素 が海 に供 給 されるという形 で海 を浄 化 していることになります。
当 然 のことながら、ノリ養 殖 と同 じようにワカメ・ コンブ・ モズクなどの養 殖も沿 岸 域 の海 水 浄 化 に大 きく寄 与 しているといえます。
Q 32- "かわたけ"とはどんな藻類ですか?
A-ネ ン ジ ュ モ 科 ネ ン ジ ュ モ 属 に 属 す 淡水産 の 藍藻 で す 。 カ ワ タ ケ ( Nostoc verrucosum) は多 数 の藻 糸 が寒 天 質 の中 に不 規 則 に集 合 して粘 性 のある塊 状 のコロニーをつくります。その塊 は“くずもち”あるいは“きくらげ”のような外 観 で, 藍 色 , 青 褐 色 , 黄緑 色 , 黄 褐 色 をしています。
河 川 や渓 流 などの清 澄 な水 の中 の岩 の表 面 や水 草 あるいは葦 の茎 や葉 に着 生 し, 四 季 を通 じて生 育 しますが, 寒 中 のものが最 もよく賞 味 されます。澄 し汁 ( 吸 い物 ) や三 杯 酢 などの具 として用 いられます。
京都府加茂川産 のものは“加茂川のり”, 滋賀県姉川産 のものは“姉川くらげ”, 富山県庄川産 のものは“葦 附 ”(あしつき),九 州 や中 国 地 方 では“川 茸 ”(かわなば) などと呼 ばれてきました。
葦 附 の名 は万 葉 集 の中 にも見 られるので、古 代 から食 用 にされていたと考 えられますが, 食 品 としてはローカルなもので産 業 的 レベルの生 産 は行 われてこなかったようです。“すいぜんじのり”と混 同 されることがあるようですが, 学 術 的 にはスイゼンジノリ( Aphanothece sacrum) とは区 別 されるものです。
Q 33- IMTA って何のことですか?
A-Integrated Multi-Trophic Aquaculture の頭 文 字 をとったアクロニム( 頭 字 語 ) です。直 訳 すれば「 多 栄 養 段 階 統 合 養 殖 」 です。魚 類 の給 餌 養 殖 と貝 類 養 殖 と海藻 養 殖 を、それぞれの養 殖 施 設 を近 接 して並 べて統 合 的 に操 業 管 理 しようとするものです。数 年 前 から海 藻 関 連 の国 際 会 議 でも IMTA という用 語 が使 われるようになり、すでにカナダ等 では実 用 規 模 の統 合 養 殖 施 設 が操 業 を始 めています。
具体的 には 、 内湾 の 潮流 の 方向 を 考慮 し 、 上流側 か ら 下流側 に 向 け て 、
(1)魚 類 の給 餌 養 殖 施 設 ( 網 いけすなど) 、
(2) 貝 類 ( カキ、ムール貝 、ホタテガイなど) の垂 下 養 殖 施 設 、
(3) 海 藻 の養殖施設 を順 に設 置 し、給 餌 養 殖 施 設 の下 の海 底 には
(4) 底 生 動 物 ( ウニ、ナマコなど) の養 殖 施 設 を設 置 します。
(1)の魚類 の排 泄 物 や喰 い残 した餌 ( 残 餌 ) に由 来 する細 かい粒 状 有 機 物 は(2)の貝 類の餌 となり、(1)と(2)の動 物 の排 泄 物 に由 来 する溶 存 栄 養 物 質 は(3)の海 藻 の栄養 になります。また、(1)と(2)の動 物 の排 泄 物 や残 餌 に由 来 する比 較 的 大 きな粒状 有 機 物 は(4)の動 物 の餌 になります。
このように、一 つの統 合 養 殖 施 設 で生 産された 4 種 類 の水 産 物 = 水 産 動 植 物 は収 穫 ( 漁 獲 ) し、商 品 として 市 場 に出荷 され、食 品 その他 の原 料 として利 用 されます。カナダ太 平 洋 側 のバンクーバー島 沿 岸 や大 西 洋 側 のニューブランズウィック州 沿 岸 ではすでにパイロット施 設 で操 業 が始 まっています。このような統 合 養 殖 は生 態 系 における食 物 連 鎖 の概 念に基 づく栄 養 段 階 と物 質 循 環 を考 慮 したものですが、中 国 や日 本 では昔 からすでに田 圃 でイネと共 にコイを育 てたり、コイやウナギの養 殖 池 の管 理 で“水 づくり”( 植 物 プランクトンの生 育 管 理 ) が重 視 されてきたし、近 年 では魚 類 養 殖 場 の水の浄 化 に不 稔 アオサが用 いられたり、オゴノリと魚 やエビを同 一 の養 殖 池 で育 てたりしてきた実 績 があります。
海 産 魚 介 類 飼 育 水 槽 の水 質 浄 化 に海 藻 を用 いることなど、これまではポリカルチャー( 複 合 養 殖 ) と呼 ばれてきました。また、ノリ、ワカメ、コンブなどの養 殖 は立 派 な技 術 に基 づいて重 要 な産 業 として確 立 されています。こうした技 術 や経 験 をとりいれ、生 態 系 における食 物 連 鎖 の中 の栄 養 段 階 や物 質 循 環 を考 慮 して科 学 的 な統 合 養 殖 を確 立 しようとするのが IMTA です。
Q 34- 海藻サラダに含まれる海藻は?
A-海 藻 サラダには 5 種 類 程 度 から多 いものでは 10 種 類 ほどの色 鮮 やかな海 藻が混 ぜ合 わせていますが、意 外 と同 じ種 類 で色 が違 うものや、ワカメでは葉 、茎 、メカブのように部 位 だけが違 うものも含 まれていることがよくあります。また、赤 、緑 、黄 、白 のような鮮 やかな発 色 は加 熱 や添 加 物 、晒 しなど各 種 さまざまな加 工 方 法を用 い時 間 をかけて変 色 させており、海 藻 そのものの自 然 の色 彩 とはほとんどのものが異 なっています。
一 般 的 に、海 藻 は加 塩 すると赤 くなりやすく、石 灰 水 などの強 アルカリ水 に漬 けると緑 色 になります。さらに天 日 に晒 すと脱 色 して白 色 になるようですが、種 類 によっても退 色 は大 きく違 うようです。このなかで、資 源 量 が豊富 で特 に鮮 やかな色 を呈 するものがよくサラダの原 料 として用 いられているようです。
では、どのような種 類 の海 藻 が原 料 として使 われているのでしょうか? よく目にするのがワカメです。この他 に、トサカノリ、マフノリ、ツノマタ、コンブ、ムカデノリ、シキンノリ、キリンサイ、ミリン、スギノリ、フクロフノリなど用 いられています。
ヒジキ、アカモク、オゴノリ、ダルスなど、粘 りを楽 しむサラダにはガゴメ、カジメ、アラメ、モズク、メカブ( ワカメ) なども用 いられていることがあります。最 近 では地 域 特 産 品 となっている海 藻 や海 外 の珍 しいものが混 ぜられているものも目 にします。
海 藻 サラダはワカメの割 合 が多 いため一 見 どの商 品 も同 じような印 象 を受 けますが、これら種 類 別 の配 合 比 率 は色 合 い、食 感 、価 格 をもとに決 定 され、その原 産 地 もニーズによって違 うためよく見 ると商 品 も多 様 になっています。また、海 藻 以 外 にも白キクラゲや糸 寒 天 、コンニャク寒 天 なども混 ぜて販 売 されることもあります。
Q 35- 乾燥ヒジキはなぜ黒いのですか?
A-ヒジキは海 中 を漂 っているときは褐 色 ですが、収 穫 した後 に天 日 で干 したり、そのまま窯 で煮 込 んだりすると徐 々に黒 色 に変 わっていきます。
これはヒジキに多 く含まれるポリフェノールの一 種 であるフロロタンニンと呼 ばれる成 分 が酸 化 され、褐色 から黒 色 と変 化 したためです。このフロロタンニンはヒジキの渋 みのもとにもなっていますが、もともと生 体 防 御 物 質 として紫 外 線 による細 胞 へのダメージを防 ぐために存 在 しています。
ヒジキの他 にも一 部 の褐 藻 類 では、大 量 のフロロタンニンを細 胞 の表 面 に持 つことで細 胞 を守 っているため、乾 燥 させたりして煮 込 んだりすることで酸 化 が進 むとヒジキと同 じように黒 色 に変 化 していきます。
余談ですが、この反 応 と似 ているのが渋 柿 です。渋 柿 はそのままだと渋 くてとても食 べることはできませんが、これもタンニンの影 響 によるものです。
しかし、干 し柿 にすることで渋 柿に含 まれるタンニンが長 時 間 にわたって酸 化 することで黒 色 に変 化 して、食 べたときにも渋 みを感 じずにおいしく食 べることができます。